マンガばっかり

マンガ批評

デザイナー渋井直人の休日

★★★★★

渋谷直角による50代になるデザイナーとその事務所の物語。
人はいいのだが、まったくモテず、最悪ではないにしても仕事についてのカンや能力も、それほどパッとしたものでもない…
デザイナーの世界がどうなっているのかはわからないが、まぁ、たぶんこんな感じなんだろうなぁ、と思う。
われわれ研究者業界を見渡してみても、今はやりの〇〇さんはこんな感じだなぁと思ったり、往年のはやりだった△△さんもこんなかもなぁ、と思ったりもする。
そしてイケてはないけれど、それほど人間としてヒドいわけでもないという渋井さんのなんと自分に似ていることか!
『さよならアメリカ』でも思ったことだが、渋谷直角はイケてる存在にあやかって生きていきたいイタイ人を曝して冷笑する人かと思っていたが、イタイは単にイタイでは終わらないし、イタクない存在という人がどれほどイタイかについても十分に意識し、問題化できている人だと思う。
エンタメなので完全にリアルに徹して坦々と日々を書き綴ることはなく、誇張もあるのだろうけれど、その枠の中での表現としては非常に優れたものであったと思う。

(No.1218)

さよならアメリカ

★★★★★

渋谷直角のマンガ。
アメリカへの憧れから郊外にアメリカンダイナーを開店した男が、実はアメリカへの渡航歴もなく、友人がアメリカ滞在中に盗んだというウォーホルのスケッチを紹介したことから一躍有名人に…
そこにアメリカ大使館やウォーホル財団、安倍晋三トランプ大統領まで出てくる大活劇。
この人の本は少なからず読んでいるが、もっと冷笑的な作品なのかと思ったが、これは甘すぎず、辛すぎず、いい具合にリアルでいてファンタジックであると思った。
SPAに連載していたものをまとめた1冊本の漫画は337頁というズッシリしたものであった。
もっと冷笑系の人かと思ったが、冷笑の裏に熱いもののある人なんだな、と感じた。

(No.1217)

コーヒー&バニラ

朱神宝による「極甘なオトナの漫画」。
イケメンの会社社長が大学生のカワイイ女の子にゾッコンに惚れ込むことから始まって、女装デザイナー、同級生、ライバル会社社長、父親、誘拐犯… と、さまざまな騒音・雑音に悩まされながらも絶対の愛が2人をさらに近付けるという話。
新しさはこの2人が臆面もなくベッドを共にし、彼氏のいない日には自慰行為までを匂わせるというあたりのエロさだろう。
作品として惹かれる所はどこにもなかったが、こういう漫画がウケて、ドラマ化もされるということについての社会学的な興味は感じた。
がんばって15巻までは読んだけどねぇ~

(No.1216)

ショートプログラム

★★★★

あだち充の短編集。
買っておきながら読まずにいたのだが、玉石混交ではあっても、改めてあだち充の世界に浸ってみると、おもしろいな、とは思う。
ただ、女性の価値は容貌なのかという、まぁエンターテイメントなので別にいいんじゃないかとも思うことだし、フェミニストを真似るつもりもないのだが、あまり容貌がどうだのということにこだわらずに読める作品というのもあってもいいのではないか、とは、3巻にわたる短編集を読むと思ってしまう…
エンターテイメントにおけるルッキズムというのは、男女を問わず、いったいどうなるんでしょうね。

(No.1215)

 

チェンソーマン

★★

藤本タツキによるジャンプ連載中の人気マンガ。
自分の顔からチェンソーが飛び出し、これで悪魔を退治する青年デンジと仲間たちの物語。
チェンソーを武器とするのだから、当然のごとくスプラッター
しかしデンジが脳みそツルツルであることから来るお笑い部分もある、というもの。
まぁ、ジャンプらしいと思うし、こういうのがウケる層というのは確実にあると思うので頑張ってくれればいいのではないかと思う。
ただ、個人的には面白いとおもえないんだよね、もっとも呪術廻戦よりは、どこが新しく、どこが面白いのか、分かる気はするのだけれど。

(No.1214)

 

ストップ!! ひばりくん!

★★★

江口寿史のヒット作。
オンタイムで雑誌を読んでいたが、最後の記憶がない。
どうなってたんだろう、と思っていたが、ジャンプコミックス版では4巻で唐突に終わっていた。
最終回ではひばり君の「ひ」も出てこない。
江口寿史なんてパイレーツとひばり君、くらいしか有名作品はないのに、それでも江口の名が忘れられていないのは、ひばりくんの可愛さとオシャレさであり、wikipediaを見る限り、その予想以上のひばりくんのヒットが逆にマンガを続けられなくなった理由だという。
1980年代の絵が2020年になっても、うまくヴァージョンアップしながら続いているのはスゴイと思う。
1980年代にはオシャレだったわたせせいぞうの絵は、さすがに2020年には古いのだけれど…
内容については、今でもそこそこに面白く読めるものの、細かなギャグや固有名詞については、現代の人達に向けてものすごくたくさんの注釈を書かなければいけないことになりそうだ…。

(No.1213)

ラフ

★★★★

あだち充による水泳マンガ。
実は読破していなかった…
80年代末に週刊サンデーに連載されていたものだが、スマホやパソコンを使っている人がどこにもいないのが不思議に思われるくらいで特に古さは感じない。
パンチラ、覗きといったセクハラや、殴り合いのケンカということが日常になっているあたりも、「時代」を感じさせはするものの、この人の絵は超時代的なので長持ちするようです。
敵対する和菓子屋の娘と息子同士が、同じ高校の水泳の選手として、さまざまな偶然や事件によって、いつしか惹かれ合い始め、ついについに結ばれるというもの。
ライバルや応援者、事故、偶然が、読んでいて過剰じゃないくらいに登場し、そりゃ亜美と圭介は、そうなるよな、と思えるラストとなっていて、「いつもとおなじ・あだち充」という一般のあだち充評には頷きながらも、でも、それだけじゃないよ、という凄みも改めて感じることができた。
ことにパンチラも、新キャラも登場せず、主人公同士のやり取りが密接になっていく後半のまとめ方は凄いと思う。
これで他のタイプの作品を描いたら、いったいどんなことになるんだろう、と思うのだが、他のタイプの作品というのを全く描かないし、描けないのがあだち充だったりする!
すごいな、いろいろな意味で…

(No.1212)