マンガばっかり

マンガ批評

ねじ式

つげ義春傑作選(其ノ1)
★★★★★
つげ義春といえば「ねじ式」。
下宿の屋根で見た夢なのだという。
他人の夢の話ほどどうでもいいものというのはないものだが、漱石の「夢十夜」にしても「ねじ式」にしても、ただの「不条理」ではすまされそうにない生々しさがある。

見知らぬ町を、いや、どこかで見たことがある気もする町をさまよいながら医者を探す…
町の人は自分の存在に無関心だ。
その心細いこと。
あぁ、母に遭いたい…
あぁ、あの頃はよかった…
しかし、この自分、この肉体は既に大人になってしまった。
あぁ、女が欲しい…
母のような、しかし、娼婦のような…

無粋を承知で書けば、こんなところだろうか。
大人になる不安と期待、異性への懼れと恐怖、自分という存在への愛と憎しみ…
曖昧な夢として描かれているからこそ、いつの時代の、どんな人にも当て嵌まるリアリティを持っているのではないだろうか。