マンガばっかり

マンガ批評

おじゃまさんリュリュ


★★★★
大矢ちきの短編集。
橋本治の評論にも出て来た人で、なんだろうと思って2007年春に出た文庫を買っておいた。
マンガを読む前に、ぴあ編集部で大矢と共にパズルを作っていたという盛田隆二の解説を読んだ。
少女マンガにおいて一斉を風靡した大矢は、なぜか活動3年ほどでマンガをやめ、今度はぴあ誌にてパズルを作る。
そしてパズルも連続100回めを迎えると「もう遊び疲れちゃった。そろそろやめていいかな?」と盛田に言ったのだという。
盛田は、こうしてマンガも描かなくなったのだろうと書いているが、マンガを読んでナルホドと思った。
表題作にして代表作である「おじゃまさんリュリュ」など、とても中編マンガに収まらないだけのテーマで、拡がりも奥行きもあるのだが、なによりも読者のためだとか、商売のためだとかではなく、本人が描きたいから描いているんだなということがよくわかる。
ネタバレになりそうなので控えめに書くけれど、リュリュを養ってくれるアミヨ夫人にはすでに99人の養子がいた。
そして夫人は99人を使っての大オーケストラを構成しているのだという。
まぁ、文字面で見れば、いかにもマンガっぽいあり得ない設定なのだけれど、これを絵に描くとなると大変である。
なんせ99人である!
すべてのコマに99人が登場しているわけではないけれど、大矢はできうるかぎり細かく、というか「細部にこそ神は宿る!」とばかりに、最終列の人間までキチンと描き分けている。
トーンなどというものも、まだあまり使われていなかった時代、ここまでやるのは、自分のための仕事だったからだろう。
養子の数なんて99人じゃなくて、9人だってストーリーとしては同じハズなのに、そこを99人にしたのは、読者のためでも出版社のためでもない。
「たくさん描きたい」という作者のコダワリだけのためだ!
フランス語もきちんとアクサンがついて、りぼんの読者を相手にそこまでしなくてもいいじゃないかと思うほどだ…
「ぴあパノラマ館」での細密なシゴトができたのも、何よりも、新しい媒体で精一杯に遊びたかったからだろうと思う。
作品に関して言っても、誰かを喜ばせるためというより、自分にとって一番おもしろいものを、そのまま描いたという感じ。
好き嫌いはあっても、善し悪しを言うようなものじゃぁない。
ただ脱帽するのみ。
売れ線を狙って、売れ線の絵でバンバン描いてランキングと収入を上げるだけじゃなく、こういう作家がたまぁに出てくれると、マンガというのはおもしろくなるのだけれどねぇ。