マンガばっかり

マンガ批評

ジパング


★★★★★
かわぐちかいじがモーニングに連載中のマンガ。
かわぐちによる「沈黙の艦隊」は通読したが、「ジパング」も現在出ている巻までは全て読んだ。
そろそろエンディングにはいるのだろうが、ここまででまったくダレることもなく、「沈黙の艦隊」に感じたツメの甘さを感じることもなかった。
カバーや巻末に著者の言葉が出ているが、どれもこれも納得させられるものばかりで、団塊世代に言うのも誠に失礼ではあるけれど「大人だなぁ」と思った。
太平洋上で演習をしている自衛隊イージス艦が、嵐に巻き込まれ、いつしか第二次世界大戦中にタイムスリップしてしまい、史実を大きく変えながらもなんとか自分たちに与えられた運命を背負いながら生き抜こうという物語。
歴史を変えてしまうことには抵抗を感じながらも、目の前で日本人が死んでいく姿を見るのは忍びない。
かといって60年分進化した武器で、後の同盟国である米兵を殺戮することが問題の解決になるとも思えない。
あり得ない設定と言えばそれまでだが、史実をつなぎ合わせながら、様々な日本人のタイプ、そして各時代の雰囲気などをうまく反映させながら、しかし、エンターテイメントとしても十二分におもしろいものにできていると思う。
実際はどのような連載形態なのかわからないが、2007年には既に6冊の単行本が出ており、すごいペースだな、と思う。
また、メインの話ではないが、佐竹一尉が身を投げる時、ふっと館山にある自宅に一人だけ帰還し、家族で団欒のひとときを過ごし、自分の人生には納得が出来る… と思った瞬間に爆死するというシーンがあった。
以前、自転車に乗って電柱にぶつかりそうになった時、時間の進み方が急におそくなって、ほとんど0コンマ何秒かの間なのに、自分の自転車が電柱に近づいている様子がスローモーションのように流れていくという経験をしたことがある。
今までマンガにはさまざまな死が、時に残酷であったりしながら描かれてきたが、こういう死の描写は初めてだったように思う。
戦争シーンや戦時中の日本人の描写、軍人や政治家たちの思想信条… ばかりが取り上げられそうだが、こうした細部にまで気配りがあるからこそ、骨太な思想が読者にも伝わってくるのだと思う。