マンガばっかり

マンガ批評

この世界の片隅に


★★★★
こうの史代による軍港・呉を舞台にした北條すずの戦前・戦中・戦後を描いたマンガ。
『夕凪の街』の作者の作品だけに読む前から雰囲気の予想はつくし、事実、そのようなマンガであったように思う。
しかし、こうのは依然として大家ぶることはなく、自分の視点で、自分の物語を、自分のプレゼンテーションで綴ろうとするよい意味での「素人性」があって、そこが何よりもよかったと思う。
男性作家だと、どうしても時代のニーズを先取りして、「戦略」の方が垣間見えてしまうのだが、女性作家、ことにこうののような作家は(もちろん本人が聞いたら否定するとは思うのだが)、我が道を行く感じで、大きなマーケットを相手にした産業としてマンガを描いているというよりも、街の裏通りにあるカフェのように、あくまでも自分の切り取った視点や感覚だけを頼りにして描いているように思えるのだ。
こうした手作り感にあふれた演出は失敗することも多く、成功したらしたですぐに誰かに持って行かれてしまうものだ。
しかし、どれだけ何を持って行かれようとも、自分自身が持って行かれることはないという風に堂々と存在し続けるしたたかさが、裏通りのカフェがそうであるのと同じように、こうのの作品にも感じられるのである。