マンガばっかり

マンガ批評

モテキ


★★★★★
久保ミツロウによる30歳を目前にしたモテナイ男子・藤本幸世を主人公とした物語。
ダメ男のマンガといえば古谷実花沢健吾などが描きまくっており、それぞれに成果を出しているように思うが、男性誌掲載の女性作家である久保は、これにどう臨むか…
正直、あまり期待しないで読み始めたのだが、予想をはるかに越えてよい作品であると思った。
かつて「翔んだカップル」を読んだ時(オンタイムで連載中)、こんなマンガがあるのか! と思ったものだが、それにも匹敵するうれしい驚きである。
どこがよいのかといえば、モテキ(人間誰しも一度は訪れるという都市神話)なるものが「本当にそんなものがあるのかどうか」「果たして自分はモテ期なのかどうか」わからないままでいることだと思う。
SF的にそうした世界における物語を描いているのかと思ったら、全然違った…
もちろんマンガだけに、誇張や読者サービスはあるにしても、性体験をしたいという思いや彼女が欲しいという思い(誰でもいいから!)と、本当に相手を愛しているのかどうか、自分が愛されているかどうか(自分が人から愛されるに足る人物なのかどうか)のさまざまな打算やら妄想やらが交錯して、自信過剰と自信喪失の波の中にたゆたう感じがうまく描けていると思う。
ことに、安直にゴールを示さないシビアな目が端々にまで行き届いているところがよかったと思う(これをやりすぎると「ひきのばし」としてまた別の批判を受けることにもなるだろうけれど)。
主人公ががんばれば、女神がほほえんで受け入れてくれた… というようなラブコメ時代への徹底的な決別と、婚活という言葉がリアリティを持つ時代の新しい生き方を提示しているという意味で好著だと思う。