★★★★
上野顕太郎による私小説的マンガ。
この本の存在は以前に聞いたことがあったのだが、読んでみると、いわゆる闘病ものとは違った側面を描いているということが新鮮であった。
冒頭で、著者は、なんでこういうものを書くのだろうかと自問しているが、たしかにエンターテイメントでないことは明らかだし、読者の誰も知らない存在の死を描いたところで一体どうなるのかという思いは当然あったと思う。
しかし、葬儀の席で、故人について何度も何度も同じことを語るうちに、自分だけのこだわりではあるが、なるだけ違った言葉を使うようにしたという心情、自分だけが悲しいのだといつしか思い込んで、小学4年生の娘の心情を思いやれなかったことを反省する件り、そしてこんなマンガを描いていながら、今は新しい人と一緒に暮らしているというどこか割り切れないような、しかし、そういうものだよ、と納得できるような気もする結末など、日本私小説史上の一つの成果として意味のある作品であったと思う。