マンガばっかり

マンガ批評

BEASTARS


★★★★★
板垣把留による動物世界の演劇部で繰り広げられる物語…
こういうの、好きじゃないんだよなぁ、と思いながらも律儀なワタシは、話題作なので一応目を通すつもりで読んで見た。
が、1巻の冒頭回で、「これはもしかしたら!」と思った。
そのまま一気に7巻まで読んだが、傑作だと思う。
舞台である動物世界では肉食獣と草食獣がお互いに仲良く暮らす、というポリティカリーコレクトネスによって、明るく平和に保たれている。
しかし、肉食と草食、さらに男と女(本作では異なる動物同士での恋愛もOK)、大きい動物と小さい動物、能力や家柄、権力もあって… 人間以上に複雑な世界が描けている。
なんで、わざわざ動物の世界なんて描かなくちゃいけないんだ、と思われるかもしれないが、答→動物世界を描くことで、人間世界よりももっと深く“人間”が描けるから、だ!
肉食と草食とは、人間社会の男女関係に似ている。
肉食は草食を食ってやりたい、と内心では思っているものの、それはやってはいけないことだと教育され、しかし、なかなかその欲望は抑えきれない。
草食は、気丈に肉食動物の前で振る舞ってはいるものの、やはり恐怖心が100%拭われることはない。
人種の謂であると考えることもできるかもしれない。
仲良し、とは言いながら、どうしても同種のものが親しみやすく、異種は排除したくなってしまう…
ともあれ、人間世界にもう一つおまけに肉食/草食という複雑さをも盛り込んだのであるから、そりゃ面白くも複雑な世界が描けるに決まっている。
別に人間社会批判というわけでもないし、人間はどう生きるべきかというメッセージでもない。
一番近いのはエンターテイメント、という言葉なのかもしれないが、「動物」という人間をデフォルメした登場人物のみで成り立っているだけに、世界中で偏見なく読まれるマンガかもしれない。
世界文学、などという大袈裟な言葉もちらっと頭の中に閃いてしまったのは事実である…
(No.1045)