マンガばっかり

マンガ批評

SPY×FAMILY

★★★★

遠藤達哉によるスパイ(ギャグ)漫画。
このマンガがすごい! 2020』オトコ編で1位となった作品。
偽装結婚したスパイと殺し屋、そして超能力を持つ義理の娘… そこにシスコンの弟(秘密警察)も加わるという設定で、キャラクターの設定やデザイン、コンセプト、そしてストーリーの何もかもが計算され、洗練されていてスゴイなと思う。
シリアスながらも、ギャグ要素は必ずあって、カッコよく、キレイで、しかもかわいい!
さすが1位だと思う!
しかし、ここもあそこも洗練され過ぎていて、これは「商品」なんだなという感じがして、それを越えて迫ってくるようなグッとくるもの、文字にしてしまうのも恥ずかしいのだけれど「芸術性」とでもいうべきものが乏しいように感じてしまった。
たしかに私たちは最高に洗練された、最高に面白いものを求めているはずなのだけれど、やはりこれだけではコクがない、滋養にならない。
そんな気がしてしまうのである。
楽しくてかわいくて、で、かっこいいというだけ…
おいおい、それ以上に、いったい何が不足してるんだよ、というかもしれないけれど、まぁ、つまり新しさがないのだ!
いやいや、新しいよ、うまいよ。
しかし、わざわざ一つの作品として描かれなければならなかったような「何か」が感じられなかった。
こんなことが世の中にあっていいはずがないという怒りだとか、こんなのがあったらいいなという願望、そうした作家の気持やら社会への希望やら絶望やら…
そういうメッセージというか怨恨というか、そうしたものがグッと腹の底の方に感じられるやつを名作と呼ぶのではないのだろうか?
たとえば近年のヒット作である『BEASTARS』では、男女やら人種やらという諸問題に対する一つの批評として動物社会が描かれているように思えるし、『さよならミニスカート』では、アイドルグループというものの存在意義、それがもたらす性や心の問題を扱っていて、なるほどと思わされる。
約束のネバーランド』だって、王道ものといえばそれまでだが、少女の向日性、夢を見続けることについて、何度も何度も問いかけられ、それがこちらに響いてくる。
昨年末のM1はひさびさの豊作だったと思うのだが、決勝に勝ち残ったミルクボーイにしても、ぺこぱ、かまいたち
うまいのはもちろんとして、現代というものをそれぞれに批評し、その切り口が新しく、なるほどそういうことか、と、笑い、また、学ぶところがあったように思う。
作者にいわゆる政治的なメッセージなどなくてもいいし、現代という時代のすばらしさを表現するのでも、すばらしくなさを表現するのでもいいのだけれど、そういうものを独自の方法で作り出そう、掬い上げようという気概が窺えなかったのが、星を5つ付けられなかった理由だ。
まぁ、こんなことをどれだけ言った所で、「いい!」という人が多ければそれまでで、『鬼滅の刃』や『ゴールデンカムイ』(どっちも評価していない)は、誰が何と言っても素晴らしいと思う人が多く、大ヒットしてしまえば、それらに芸術性がないなどとどれだけここでほざこうとも無視されるだけなのだろうけれどね(鬼滅もカムイも、扱った世界が新しいのだと言われれば、まぁ、確かに新しくないこともない。しかし新しい様相をしているだけで、いわゆる「王道もの」に対して、何ら新しいものを付け加えられていない気がするんだよね)。

(No.1141)