マンガばっかり

マンガ批評

チーズ・イン・ザ・トラップ

★★★★★

soonkkiという韓国人によるWEBマンガ
本当かどうか知らないが全世界で1億アクセスなのだという。
日本のマンガが韓国に抜かれるとか、もう、そういうことはどうでもいい。
日本マンガのお約束に則りながら、左開きでキャプション横書き、フルカラーというのは、これからの国際時代のデフォルトになりそうな感じだ。
フルカラーというと、さぞかし作家さんは大変だろうなと思ったのだが、『偽装不倫』でフルカラーのマンガを描いた東村によれば、トーンよりも却って楽だとのこと。
まぁ、たしかにトーンというのは白黒ながらさまざまな色の表現もするという、非常にテクニックを要求されるものだということを考えれば、色というのは楽なのかもしれない。
WEBマンガの時代となると、ますます色が付くのかな、とも思った。
内容だが、世界中に読者がいる、ということからもわかる通り、その魅力は、つまりリアルということかなと思う。
恋愛マンガというのは日本発なのかもしれないけれど、イケメンとちょっと問題アリの女子が付き合うという話自体は、お約束といえばお約束どおりだとは思うが、大学生活をここまできちんと描いたものは少ないと思う。
大学というと、日本のマンガだとほとんどすべて(わずかに医学部マンガや音楽学部マンガを除けば)大教室で「ふあーーーっ」と欠伸をしながら、「終わった終ったぁ」としてちょこっと出て来るだけで、大学の授業内容やゼミ発表、成績などということが取り扱われたためしはない。
夏休みになると軽井沢の教授の別荘に行って、バーベキューをして… という程度だ(軽井沢に別荘なんか持ってねぇよ!)。
そもそも日本の大学生は大学を軽く見ているし、現に彼らの人生において大学がさほど大きな意味を持っていないのは(一部を除いて)分かる。
しかし、その割にはゼミ発表があったり、大学の学食で誰やらとケンカになったり、あることないことの噂話がトラブルになることはあるんじゃないだろうか。
世の中の漫画家に、まだ大卒者が少ないせいなのかどうかは分からないが、こういうくだらないかもしれないけれどよくある話、割と大事な話というのが日本のマンガをはじめとする多くのエンタメ(シリアスなものでも)に描かれていないというのは全くの怠慢ではないかと思う。
もちろん大学を描いていたらOKというわけではないけれど、日本マンガがいつしか「お約束」として扱わなくなってしまっている大学でのリアルをきちんと描いていたりするあたりは新鮮に感じられた。
もちろんイケメンやら金持ちやらが「いかにも」という感じで都合よく登場しすぎるし、妙に暴力的だったりもするけれど、それでも今まで日本マンガでは見過ごされていた「或る種のリアル」が出ているのはとてもいいと思うし、そこが評価されているのだと思う。
別に大学をどう描くか、というのにとどまらず、日本マンガがいつしか当たり前のように作ってしまったお約束はたくさんあって、これからはそうしたお約束を軽々と、何の苦もなく乗り越えてしまう外国マンガというのが、きっと多くなるのではないかと思う。
大人では考え付かないようなことを子供が気付くような、そしてそれを大人たちが「みずみずしい」と呼ぶような…
韓国ドラマやK-POPの流行も、おそらく同じようなところにあるのだろう。
日本が当たり前としてしまっていたものを、顔かたちがほとんど日本人と見分けがつかないながら、新しいリアルや、新しいトキメキを提供してくれている、というのが韓流ブームの根底にあるように思う。
日本マンガは、そこを逆に取り入れて、あるいは自分たちが当たり前に思ってしまっていることが何なのかを検証しながら、したたかにヒット作を出してほしいと思う。

(No.1195)