マンガばっかり

マンガ批評

憂国のモリアーティ

★★

三好輝によるアニメ化もされ、舞台化もされているという人気マンガ。
14巻まで読んだが、うーん、と思った。
コナン・ドイルのホームズシリーズを元に構成されているというストーリーなので、おもしろくないはずはないのだが、どうにも十分に熟成されないままにマンガになってしまっている気がしてならない。
たとえばホームズは天才的な推理能力、観察力があるはずなのに、女優アイリーンが男装していることに気付かない。
アイリーンは美人女優として通用する肉体の持ち主、つまり細身で、胸もあって… なのだが、そんな女性が誰にも気づかれないように男性になりすますことは不可能だと思うのだが…
たとえば宝塚の男役は男よりも男らしいのだが、リアル世界で、男装した彼女を男と見間違える人はいない。
また、ホームズが相棒であるワトソンにむかって「俺はお前のことを本当の友人だと思っている」と屋根の上で突然に告白するシーンがあるのだが、面倒くさがり屋で、なかなか本心を打ち明けるようなキャラではないホームズが、そんなことをいうとは思えない。
そもそも、ワトソンが突然結婚を決めてしまい、フィアンセのことが好きでたまらない、などと描かれているのも、10巻あたりまで、ワトソンにそんなそぶりは一つもなかったことから、「だまされているんだろうな」としか思えなかったし、そんなワトソンとフィアンセのことを、篤い友情から命がけで守ろうとする… というホームズについても、「あぁ、きっと演技で、信じたフリをしているんだろうなぁ」としか読めなかった。
宿敵であるモリアーティに対しても、ホームズは「ライバルでありながら本当の友人だと思っていた」などと告白し、それが二人に共通した思いであったことも確認し合うのだが、ホームズもモリアーティも、そんなことを言うようなキャラとして描かれてはいなかった!
いや、だからこそ感動するんじゃないか、と、たぶんファンの女子たちは言うのだろうが、それは読者の女子たちが、最初から「男性同士の友情もの」「ライバルが実は最大の友人」という解釈格子で深読みしていたのと合致していただけなのだと思う。
作者はそのあたりを200%計算の上で描いているのだろうが、もちろん、そういうことだってあり得るとは思うものの、それなら、そこに至るまでの過程を、もっときちんと描くべきだと思う。
男子向けでも女子向けでも圧倒的な支持を持つマンガやアニメというのは、どうにもそのあたりの説明が不足というかロジックが不足していて、なかなかハマれない。
まぁ、そんなことをしなくても、熱狂的なファンが付いているのだから余計なお世話ということなだろうけれど…

(No.1268)