マンガばっかり

マンガ批評

ベルリンうわの空 ランゲシュランゲ

★★★★

香山哲によるシリーズ3作目。
最終作のようである。
第1作はベルリンという街で暮らすことになったという最も明るく楽しい話。
第2作ではベルリンの人たちと共に活動するという話。
そして第3作になると、これまでベルリンで明るくきちんと生きていたと思われた作者が、実はいろいろ悩みながら生きていたということに触れられた本、という感じかと思う…
2020年11月から2021年9月までの連載だというのだが、マンガの中に描かれてはいないがベルリンでもコロナ禍はおこっているはず。
ウクライナ侵攻は2022年の2月なのでまだ始まっていないが、そんな暗い時代の始まりがどこかで予想されていたような感じだ。
「自分のペースできちんと生きていく」ということをモットーに生きているはずの作者だが、それでもふと将来どうするんだ、金は大丈夫か、ということが頭をかすめるらしい。
これまでも「ぶっちゃけ、どうなんだろう」と思っていたことではあるが、やはり多才な作者でも、そういうことは感じるのだろう。
或る意味、ホッとするところがないでもないが、楽しい読み物として触れていた人間にはちょっと期待はずれな感じもあるかもしれない。
また一貫してこの本には触れられていないのだが、家族を持つこと。
もちろん相手が男性であれ女性であれ構わないのだが、そんなあたりはどう思っているのだろう。
また、きらいなわけではないはずの日本に残してきた親兄弟や友人たちについてはどう思っているのだろう。
おそらく何度か日本に戻ったこともあるだろうし、友人の一人くらいは訪ねてきたと思うのだが、そのあたりも省かれている。
いや「描くほどのことは何もない」ということなのかもしれないが、そんなあたりもあってくれると、海外で生活していくことについて、本当にどうなのかということを気軽なエンタメマンガという以上のものにしてくれたのではないかという気もする。

(No.1331)