マンガばっかり

マンガ批評

忘却バッテリー

★★★★

みかわ絵子の野球マンガ
最強のバッテリーとして名を馳せたのにキャッチャーがまさかの記憶喪失となり野球に関するすべてを忘れてしまって都立高校に進学する… というギャグorスポ根マンガ。
たしかにおバカなギャグなのだが、ギャグだけではなく、そしてマジだけでもないというニッチ路線。
キャッチャー要圭も、記憶がないながらに、過去の自分を思い出し、また、今の自分として生きていくことに少しずつ意味を感じ始めて… といいながら、記憶が元にもどってしまったら、ただのスポ根マンガになってしまうので、それがこれからどう展開するかが見どころかと思う。
みかわ絵子という人も知らなかったが、主流がこれほどはびこっている日本のマンガ界だからこその傍流マンガで、これはこの路線で華々しく流れて欲しいと思う。
それにしても、もう少し話題になってもいい気はするけれど…

(No.1264)

サマータイムレンダ

★★★★

田中靖規による長編ホラー。
和歌山出身の作者が、自分の故郷(あたり)を舞台に、和歌山弁を十二分に活用しながら描いたのだという。
全13巻できちっと終っているところがよい。
続けようと思えば、さらに親玉が、さらにその親玉が、というふうに長引かせなかったのが偉い。
また、過去のジャンプ作品を出せば、『デスノート』では、ノートのきまりが、だんだん込みいってきて、終りが近くなると、こういうときにこうすればOKだが、こういう例外もある… といった文字がギッシリ詰め込まれてしまっていたのを考えると、そのあたりもスッキリしていた。
ウシオも、バカっぽいけれど、なんだか逞しく、強く、そしてカワイイ感じがあり、それが全体にいい雰囲気をもたらしていたと思う。
まぁ、アニメ化もされるよな、と思う。

(No.1263)

トニカクカワイイ

★★★★

畑健二郎によるSF萌マンガ。
かぐや姫が現代に降臨するというSF設定の枠の中で天才少年・ナサと美少女・司という若夫婦がイチャイチャする話。
何しろ1話目で、お互いを知りもしない男女が結婚を約束してしまうのでラブコメではない。
徐々にキャラクターを増やしつつのイチャイチャ・コメディも悪くないと思う。
ハヤテのごとく!』の作者であり、アニメ化もされた人気作品だが、世界観の設定もうまいと思うし、若妻との話についても、エロを持ち込むことはなく、あくまでプラトニックに恋愛として語ろうとしているあたり、スゴイな、と思う。
司についても、ただの美少女ではなく(16歳の少女を1400回繰り返しているという段階でただものではないのだが)、ゲーム好きでアベンジャーズ・オタクの側面を持つなど、そのあたりのやり過ぎない現代化もうまいと思う。

(No.1262)

怪獣8号

★★★★★

松本直也による王道もの。
少年ジャンプ+」連載中のジャンプ系マンガで、あまり好きなジャンルではないのだが、これはけっこう面白いと思う。
主人公の日比野カフカ(32)は怪獣大国・日本の影の存在。つまり怪獣退治のエリート集団である日本防衛隊の隊員になることができず、退治された怪獣の死体処理を専門とする清掃業者である。
一方、カフカの幼馴染の亜白ミナは、かつては「怪獣を全滅させよう」と共に誓った仲なのに、今や日本防衛隊の精鋭となっている。
防衛隊の受験資格が33歳まで引き上げられたところでカフカは再度受験を決めるが、謎の怪獣を飲み込んでしまったことから、自分も怪獣化してしまい「怪獣8号」の番号を付けられる存在となる…
幼馴染ミナとのラブコメ、先輩カフカと後輩レノのバディ関係、ツンデレお嬢様のキコルと弱気なおじさんカフカの対比、地震大国・日本をもじった怪獣大国・日本という設定の巧妙さ等々から、ただただ怪獣をやっつけてヒーローになるぞという熱血王道ものとは違って、ちょっとゆるかったり、人間味があったりで、おそらくはその生真面目過ぎないところ、つまりはリアリティも担保しているあたりがいいのかなと思う。

(No.1261)

汚部屋そだちの東大生

 

★★★★★

ハミ山クリニカの実話マンガ。
母親の圧力から東大理学部に進学した… のだと思っていたが、今日、たまたまTwitterのトレンドに上がっていたので、その取材記事によれば、高校卒業してすぐに芸大の美術科に入り、そこを退学して東大に行ったらしい。
芸大に現役で入って、そこをやめて東大???
もちろん本のタイトルとしては、東大生の方がインパクトがあるのだろうけれど、現役で芸大に行くというのも相当なものだと思う。
検索してみると、顔出し写真のある取材記事もあった!
マンガのよしあしというより、とにかく事実が先行してしまうのだが、インタビューをいくつか読んでみて、就職と同時に家を出たわけではないこと、芸大時代はそれなりに芸大生らしいことをしていたこと、などなど、マンガだけ読むと、主人公はどうしようもなく生活力も判断力もないオトナ子供のような感じがしたのだが、実際は、必ずしもそういう人でなかったようだ。
しかし、総てが創作ではないだろうし、母親による洗脳というか呪縛、20歳になってまで解けなかった人というのは、こんな感じなのか、と思って恐ろしく思った。

(No.1260)

清少納言と申します

★★★★

PEACH-PITによる清少納言を主人公にしたマンガ。
Rozen Maiden』や『しゅごキャラ!』で有名なユニットPEACH-PITが描いたというのも異色だが、単に異色なだけではなく、きちんと平安時代を踏まえながらも攻めている感じでいい!
ただ、清少納言が実はイケイケ、実は男子… というのは、似たようなネタが他にもたくさん出ていることもあって、今、ここでやる必要があるのかな、という気がしてしまう。
もちろん作品自体は、それはキャラのうちの一つであって、それだけをネタにして進めるものではないのだが、だからこそ、そうしたいかにもっぽいネタは封印して欲しかったような気がする。

(No.1259)

現代マンガ選集

★★★★

筑摩書房創業80周年を記念しての文庫によるオリジナルアンソロジー
「ここで、これを選ぶかなぁ」というものがあったり、「おぉ、来た来た、やっぱりこれだ!」というものがあったり、「この人のマンガならもっと別のやつを選ぶだろ!!」というのがあったり。
もちろんセレクションは、もっと素晴らしいものだったかもしれないが、文庫本8冊に収めるにあたって、長さの関係や作者の許諾、出版社の思惑など、いろいろあっての結果なのだろう。
アマゾンのコメントなどを読むと、「現代と言いながら60年代に偏り過ぎだ」という批判があり、うん、それもごもっとも、と思いながら、万人が満足するようなセレクションができると思う方がそもそも期待し過ぎだろ、などとも言いたくなる。
もちろん、個人的にさすがと思うセレクションもあれば、そうでないと思うものもあるのだが、とにかく通読するところから始まるのではないか、という気がする。
内容は以下のとおり。

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1 表現の冒険(中条省平編)
石ノ森章太郎「待つ」/岡田史子「ガラス玉」/つげ義春ねじ式」/林静一「赤とんぼ」/佐々木マキ「かなしい まっくす」/長谷邦夫「ルパン二世」/ダディ・グース「砦の下に君が世界を Macbeth ’69!」/みなもと太郎「ホモホモ7只今参上」/真崎・守「挽歌・子守歌」/宮谷一彦「人力死行機」/安部慎一「猫」/上村一夫「おんな昆虫記」/赤塚不二夫「実物大のバカボンなのだ」/谷岡ヤスジ「ベロべーマン」/小池桂一母をたずねて三千里」/高野文子「病気になったトモコさん」/松本大洋「だみだこりゃ」/西岡兄妹「林檎売りの唄」

2 破壊せよ、と笑いは言った(斎藤宣彦編)
石ノ森章太郎「テレビ小僧」「さるとびエッちゃん」/つのだじろう「ブラック団」/長谷邦夫「ライク ア エロチック コミック ストリップ」/赤塚不二夫「ギャグゲリラ」/和田誠「007 贋作漫画集」/佐々木マキ「見知らぬ星で」/ 東海林さだお「新漫画文学全集」/秋竜山「Oh☆ジャリーズ」/滝田ゆう「寺島町奇譚」/水木しげる「新、あり地獄」/橋本治「とめてくれるなおっかさん」ポスター、「東大版博徒列伝」/谷岡ヤスジ「ヤスジのメッタメタガキ 道講座」/ダディ・グース「貧乏くじをぼくが引く!」「月光仮面暗殺物語り」/赤瀬川原平「櫻画報」/山上たつひこ「喜劇新思想大系」/林静一「火の玉怨歌」/谷川晃一「鏡面と修羅」/高信太郎佐伯俊男「情念魔我人版 天才ばかぼん」/杉浦茂「ブリーフ補佐官」/いしいひさいち「バイトくん」/大矢ちき「ぼくのすてきなポシイおばさん」/高野文子「ウェンディのクリスマス」

3 日常の淵(ササキバラ・ゴウ編)
楠勝平「暮六ツ」/滝田ゆう「寺島町奇譚」/つげ義春「チーコ」/永島慎二「仮面」/つげ忠男「或る風景」/鈴木翁二「東京グッドバイ」/安部慎一「やさしい人」/水木しげる「昭和百四十一年」/つりたくにこ「僕の妻はアクロバットをやっている」/やまだ紫「性悪猫」/近藤ようこ「ものろおぐ」/高野文子「午前10:00の家鴨」/池辺葵「ねえ、ママ」/安達哲バカ姉弟」/いましろたかし「盆堀さん」

4 異形の未来(中野晴行編)
水木しげる「サイボーグ」/山上たつひこ「そこに奴が…」/あすなひろし「300,000Km./sec.」/萩尾望都「ポーチで少女が小犬と」/いしかわじゅん「至福の街」/とり・みき「P」/吉田秋生アカプルコ・ゴールド」/手塚治虫「レボリューション」/諸星大二郎「ぼくとフリオと校庭で」/浦沢直樹「Return」

5 俠おとこ気ぎと肉体の時代(夏目房之介編)
白土三平ざしきわらし」/平田弘史「太刀持右馬之介」/梶原一騎川崎のぼる巨人の星」/高森朝雄ちばてつやあしたのジョー」/梶原一騎つのだじろう空手バカ一代」/雁屋哲池上遼一「男組」/バロン吉元「柔俠伝」/宮谷一彦「肉弾時代」/高寺彰彦「友よ急げ」

6 悪の愉しみ(山田英生編)
白土三平「死刑執行」/辰巳ヨシヒロ「殺人業者」/さいとう・たかを「のれん」/佐藤まさあき/「16年」/諸星大二郎「復讐クラブ」/山岸凉子「グール(屍鬼)」/豊田徹也『珈琲時間』より「Hate to See You Go 」/近藤聡乃『美しい町』より「商店街」/斎藤潤一郎『死都調布』より「イン・ザ・クソスープ/粟津潔「すてたろう」/かわぐちかいじ「Sの恋」/石井隆停滞前線」/湊谷夢吉「アヤカシの大連」/うらたじゅん「発禁・櫻御前」/手塚治虫「処刑は3時におわった」/つげ義春「不思議な手紙」/つげ忠男「幸福なる一家」/永島慎二『人間劇場』より「はえ」/谷口ジロー「夢のつづき」

7 恐怖と奇想(川勝徳重編)
横尾忠則週刊少年マガジン 昭和四十五年八月十六日号」表紙(カラー口絵)/橋本将次「女を狙え」/凡天太郎「河童」/呪みちる「赤いトランク」/金風呂タロウ「訪問」/新谷成唯「voice/声の存在」/陽気幽平「ぬらり沼」/楠勝平「蛸」/岩浪成芳「悪魔っ子」/山川惣治「指輪」/小松崎茂関東大震災」/丸尾末広「無抵抗都市」

8 少女たちの覚醒(恩田 陸編)
萩尾望都「ドアの中のわたしの息子」/一条ゆかり「ラブ❤ゲーム」/坂田靖子サーミュの家」/土田よしこ『つる姫じゃ~っ!』より「いい旅しよう!の巻」/美内すずえ「エリカ赤いつむじ風」/清原なつの「花岡ちゃんの夏休み」/わたなべまさこ「聖ロザリンド」/倉多江美『一万十秒物語』より「儀式」/篠有紀子『フレッシュグリーンの季節』より「いちばん不思議な人」/吉田秋生『海街diary』より「蟬時雨のやむ頃」

(No.1258)