マンガばっかり

マンガ批評

いつか死ぬなら絵を売ってから

★★★★★

ぱらり、による『このマンガがすごい! 2024』で18位になっていたマンガ。
なんとなくマンガの話かと思っていたが、ファインアートで「絵を売る」ことをテーマにしたマンガであった。
ファインアートといえば、近年では『ブルーピリオド』や『ハチミツとクローバー』『ギャラリーフェイク』『左ききのエレン』『かくかくしかじか』『ひらやすみ』などが浮かぶが、「売る」ということに焦点を当てたものはなかったように思う。
しかし、売るだけを前に出すのではなく、きちんと描くことにも向き合っているところがいいと思う。
この作家が、どれくらい美術業界に通じた人なのか、また、ここに書かれているような世界が、どれくらいホンモノなのか、判断することはできないのだが、素人には十分にホンモノと思えるようなマンガにはなっているように思えた。

(No.1382)

サンダー3

★★★★★

池田祐輝による人気マンガ。
4等身のマンガキャラクターが、宇宙人侵略されているリアル世界の日本で戦うという話(らしい)。
まだ3巻まで読んだのみなので、今後の展開は分からないが、ギャグでありながらリアルで、リアルながらにギャグでけっこういいかもしれない。
どうして人が生き死にしている事件が起こっているのに、渋谷の街に繰り出すことができるんだろう、というあたりは、この手のマンガにはよくある理解不能な点なのだが(パニックになると人は用意に家に引きこもるのだということはコロナで立証できたと思うけれど)、そうした点を除けば、期待できる作品であるように思う。
王道ものには、もう疲れてしまっているのだが、こういう変化球ならば十分に楽しめる。
ただ『ワンパンマン』や『怪獣8号』、『ダンダダン』など、滑り出しはおもしろいと思えたものの、連載が長くなってくると、吸引力が落ちてしまっているように感じられ、『サンダー3』は、このままの勢いで駆け抜けて欲しいと思う。

(No.1381)

クロエマ

★★★★

海野つなみ、が現在連載しているマンガ。
逃げるは恥だが役に立つ』でブレイクした海野だが、『逃げ恥』でもいろいろあって男女が同居する話だったが、今回も、いろいろあって同居することになった女二人の物語。
作品紹介は「古い洋館にひとりで住むお金持ち黒江と、いきなり仕事も恋も失った江間。ふたりが偶然出会い、とけたりとけなかったりする謎の数々と、生まれる最高のパフェたち。/海野つなみが描く、対照的な女ふたりの物語──。/”仲良くなくても一緒にいれます”」であったが、まぁ、そうだな、と思う。
第1巻の「後書き」には「女子二人のゆるふわミステリーを書きたいというところから始まりました」とある。
近年、女性漫画家たちが恋愛や結婚以外のテーマとして、ミステリーを取り上げることが多くなり始めているような気もする…

(No.1380)

氷の城壁

★★★★

阿賀沢紅茶の人気作。
中学時代のトラウマを引きずっている小雪は、目力の強さもあって、人を寄せ付けない。
一方、美少女の美姫は、大人気の中で高校デビューするが、本来のキャラとのギャップがありすぎて息が詰まっている。
そんな二人に陽太と湊がからみながら物語が進んで行く…
いかにもLINEマンガっぽい絵だが、こういうのがZ世代に支持されるのだろうなというのは、なんとなくわかる。
サラッとしている、というのが作風なのかもしれない。
描いた漫画を個人的にアップしていたところがこの作品で有名になって脱サラ、という人らしい。

(No.1379)

家が好きな人

★★★

井田千秋によるオウチ漫画。
今、出版社を確認して、「ふーん」と思う。
5人の一人暮らし女性が家でどう仕事しているかを描いた漫画、というか5人のライフスタイルをイラスト入りで紹介する際にセリフも追加されたもの、という感じだろうか。
鈴木のりたけ『しごとば』という絵本があり、リアルな仕事現場をわかりやすく、楽しそうに描いていたが、そんな感じのイラスト本。
まぁ、こういうおうち好きの女性たちは少なくないだろうし、晩婚化・未婚化は、ますます進むことでしょう。

(No.1378)

うみべのストーブ

★★★

大白小蟹の作品集。
このマンガがすごい! 2024』のオンナ編1位になったので読んでみた。
少しシュールな着想を含む短編集で、悪くないとは思うが、ダントツ1位という気もしない。
筑波大の大学院を修了している人のようで、『かしこくて勇気ある子ども』の著者である山本美希を「先生」と呼んでいるが、山本ほどにはメッセージ性は強くなく、令和のZ世代にも気持ちよく受け入れられそうな気はする。
最も現実的かとも思われる「雪の街」などは、しみじみと共感できるものだった。
沖縄出身の人のようだが、同じく雪を登場させた「雪子の夏」「雪を抱く」も、それぞれ印象に残るものだった。

(No.1377)

ダイヤモンドの功罪

★★★★★

平井大橋による『このマンガがすごい! 2024』のオトコ編1位になった作品。
絶賛の嵐であった…
才能がありすぎて、周囲とうまく人間関係がとれなくなった小学5年生・綾瀬川次郎の物語であり、たしかにこういう野球マンガはなかった、と思う。
ただ、似た問題は、たとえば『ブスなんて言わないで!』でも扱われていたと思う。
容姿が悪いばかりに、ずっと人から蔑まれていた女性が、自分をずっと蔑んでいた(と思われていた)美女に向かい合う話だが、美女は美女で、自分の意志が反映されることもなく周囲が勝手に動いてしまって、他人とのコミュニケーションが円滑にとれない不幸な存在であった…
優れた容姿をもった或る女性が、「結局、みんな顔しか見ていない」とぼやいていたことを記憶しているが、それは他人から見れば贅沢な悩みに思われるかもしれないが、本人にとってはかなり深刻な悩みだったのではないかと思う。
ふと思ったが、天皇の子どもたちなども「真の友人」を持ちにくかったのではないか、などとも思ったりする。
殴り合いのけんかをしたり、イジメたりイジメられたりということも、良くも悪くもなかったんじゃないだろうか。
「イジメと無縁」というのは、ちょっと考えると理想的である気もするが、「イジメを受けることさえもできない聖なる地位」から身動きも取れない存在というのは、本人にとっては、実はそんなに嬉しいことでも無かったのではないか、とも思う。
余計なお世話、だろうけれど…

(No.1376)