マンガばっかり

マンガ批評

可愛そうにね、元気くん

古宮海のマンガ。
若い人は、こういうのは好きだろうな、と思う。
マンガ少年の廣田はクラスメイトの八千緑さんがボロボロにされる姿を想像してはマンガを描き、エクスタシーに浸っているというヤバイ男。
しかし、そういう絵を好む人の界隈では密やかに人気者であったりもするらしい。
そんな廣田の秘密を知ったクラスナンバーワンの美少女にして、成績優秀スポーツ万能の鷺沢は、廣田をいたぶり、精神的に追い詰めて喜ぶ。
八千緑の弟も廣田の所業を知って、いたぶろうとするのだが… という話。
うん、確かにそういうマンガを描く人、そういう秘密を知って弄ぼうとするヤツもいるだろう…
ただ、剣道部員だと思われる鷺沢が、イジメのためにここまで注ぎ込むのはなぜなのだろう?
廣田が好きなの?
過去にフラれたことがあるとか??
まぁ、こういうことを書くと、のび太も、そろそろドラえもんから借りたグッズが役に立たないことを学習しろよ、とか、コナンの周りで殺人事件が多すぎるだろ、というのと同列に扱われるかもしれない。
が、ちょっと違うと思う。
廣田が嗜虐的なマンガを描くこと、加えて、八千緑がおとなしく、そして鷺沢が攻撃的で、二重人格者であることは、彼等の心理的な特性であって、それが本作のテーマになっているはずだ。
しかしテーマになってもいるというのに、鷺沢がそこまで廣田に、あるいは廣田イジメに執着しなければならない心理的必然について、全く説明がなされていないというのは欠陥ではないだろうか。
クラスナンバーワンの人気者でいたい気持ちは分かる。
その裏にどす黒さがあるということも、あるかとは思う。
しかし、そこまで執着させるのは何故?
同じような毒女もの『惡の華』で、仲村佐和は「クソ虫が!」と言いながら春日を追い詰めていったが、その気持ちは完全に、とは言わないにしても、まぁ、あるかもな、というくらいには理解できた。
しかし本作は、二重人格性というギャップを目立たせるだけのギャップポルノともいうべきもので、アートとは言い得ないと思う。

(No.1186)