マンガばっかり

マンガ批評

ヒメアノール


★★★★
古谷実のマンガ。
近年、実写映画化されたとのことで、読め読めという声が多かったので読んでみた。
例によってたいしたとりえもない、というか悪いことばかりが目立つようなダメ男が美女に愛されてしまうという古谷実らしい筋立てなのだが、本作では、このダメ男と美女の話は狂言回しであって、ダメ男の元同級生である森田の虚無と連続殺人がテーマ。
人間の尊厳を疑われるようなイジメを受け続けた森田は、イジメ主犯格だった男を殺すころから殺しの味を覚え、次々にターゲットを作っては殺人を続け、しかし、殺人を続け、逃げ続けることから生きることと殺すことの意味のどちらもがわからなくなる、といった話なのだろうと思う。
イジメは怖いよ、ということでもないし、人殺しは怖いよ、ということでもなく、人間が社会の中で生きていくことの喜びと哀しみとを浮き彫りにしようという作品であったように思う。となると、例のダメ男が美女にもてるという突っ込まれどころも、古谷ファンへのサービスとして行っていただけのものだったのかもしれない。
まぁ、たしかにガチに殺人話だけを連続されても息苦しくなるだけであったかもしれない…
(No.985)