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マンガ批評

孤独のグルメ

孤独のグルメ
★★★★★
久住昌之・作、谷口ジロー・画のマンガ。
タイトルがよくない。
久住も谷口もどういう仕事をしているどんな人かは知っているのだけれど、それでも、なんだか孤独っぽいおっさんがグルメ、つまりどこぞのフレンチだのに行って、まったりしているとか何とかつぶやくマンガなのではないかと思ってしまう。
しかし、井ノ頭五郎が食べるのは山谷のぶた肉いためライスだったり、大阪・中津のたこやきだったりする…
こう書いても、「はいはい、そういうところにこそ隠れた名店があるんでしょ」と思ってしまう。
じゃぁ、神宮球場のウィンナー・カレーに池袋のデパート屋上のさぬきうどんではどうだ!
「B級グルメでしょ?」。
いや、ちがうのだ。
BとかCとかと言って特記するような個性などさらさらないそのへんの店なのである。
いや、たまには特記事項があったりするのが普通の店の奥深いところだったりするのだが、それにしても、普通電車しか止まらないような駅の駅前にある、あんまりイケテナイ、かといってことさらにイケテナイわけでもない店をめぐるマンガなのだ。
そういう店で出てくる物は、たいてい「おいしい!」というものではないのだけれど、それでも、「あれ、このお新香はけっこういいじゃないの」とか「これは案外お買い得じゃないか」などと思ったりするものである。
そういう一喜一憂をまとめて一冊にしたのがこの本である。
名店ガイドかというと、そうでもなく、実在するのかしないのかよく分からないのだが、まぁ、その辺はたいした問題ではない…

どんなお金持ちであっても、イナカ町でごはんを食べなくてはいけない時がある。
そんな時、どの店に入るか、何を食べるか。
これはけっこう重要な問題ではなかろうか。
そもそもごはんを食べる時間というのは、豪華だから2時間とか、粗末だから10分とかいうものではない。
どれも、だいたい同じくらいの時間がかかるのであり、ごはんについて考える時間も同じくらいにあるのだ。
それを「ないこと」にしてしまうわけにはいかない。
絶対に食べている、絶対に何か思っているはずなのだ。
そしたらそれについて語る言葉があってもいいではないか…
この本にはそういう食に対する深いというか、あるいは浅すぎる洞察に貫かれていて、そこが称賛に値すると思うのである。

JR三鷹駅前にあるおいしいかと思うと、実はそれほどでもない「えぐち」というラーメン屋について、1冊の本をものした久住の底力を十分に感じさせてくれる本であった。