マンガばっかり

マンガ批評

河童の三平


★★★★★
水木しげるの代表作の一つ。
あきれるばかりのおもしろさであった。
遙か昔に通読したことはあったのだが、新たに読み直して驚くことが多かった。
「ストトントノス七つの秘宝」という話は、秘宝を求めて敵の中を進んでいくという、今のマンガにもよくある冒険ファンタジーで、少々たいくつな感じもあったのだが(と言っても、それは水木の責任ではなくて、順番から言って、水木のマネがいかに世にはびこっているかということなのだろうけれど)、その他は驚くばかりの設定や展開で、現代マンガばかりを読んでいる人には、是非とも読み直してもらいたいマンガだと思った。
いろいろな魅力はあるけれど、特筆しておきたいのはあちこちに描かれている死の描き方である。
世のマンガは、この死を必要以上に大げさに描いていて、死ねばそれでいいのかい、と憎まれ口をききたくなる気もするのだが、その一方、あまりにも死を簡単に扱いすぎる傾向も目につく。
学園内で何人もの人間たちがぽんぽんと死んだり殺されたりしているのに、パニックに陥ることもなく、ガリ勉君はしっかり勉強して、スポーツ少年はあくまでスポーツを続けていたりするのはとても違和感を持つ。
その点、河童の三平に出てくる死は、とても恐ろしい哀しい出来事として描かれてはいるのだけれど、生の世界は必ず死の世界に繋がっていくのだという必然や諦め、冷淡さ… も、きちんと描かれているのだ。
作家論的な言い方になるけれど、水木の奇想天外で、バカバカしいような筋書きは、紙芝居を見ているガキどもに「あっ」と言わせるために培われた話芸が実ったものだと思うし、恐ろしくも懐かしい死の感覚は、戦場で多くの友人知己を失った哀しみと諦めによって培われたものなのだろう。
となると、現代のマンガたちは、ジャンプ的なアンケート第一主義によってできてしまったもの、ということになるのだろうか。