マンガばっかり

マンガ批評

君は春に目を醒ます

★★★

縞あさと、のマンガ。
兄のように慕っていた人が、病気のために7年間、人工冬眠をし、目覚めたところで同級生として生きていくという物語。
科学的にはあり得ない話なのだが、もし、そんなことがあったら、と仮定すれば、いろいろたいへんだろうなぁ、とも思いながら読む。
突然記憶が戻った記憶喪失者が社会復帰する時も、おそらくこんなような大なり小なりのドラマは展開されているのであろう…
1巻と2巻の巻末には、それぞれ複雑な事情を抱えながらも、未来に向かって生きて行こうという男女の話が載っているが、そういうものを描きたい人なのだろう。
ただ、この2短編を読んでも思うのは、そんなに簡単にはいかないだろ、ということだ。
そして、もっと冷淡な言い方にはなるが、世の中は広いのだから、そこまで小さなコミュニティのことにばかり関わって人間は生きてはいない、ということだ。
子ども時代の複雑な事情を抱えながら、我々は育っていくわけだが、高校なり大学なりに行く頃には、よくもわるくも新しい人間関係ができていて、子ども時代の熱かったり冷たかったりする関係など、ほとんどたいてい忘れてしまう(少なくとも、意識の前面には出て来ない)。
進学や就職で転居することも多く、そうなれば、なおさら小さなコミュニティで起こった問題からは関心がそれていく。
そうして問題を乗り越える、のではなく、問題を忘却する、ということによって、こうした「問題」は解決(迷宮入り?)していくものなのだろう。
まぁ、それでは物語などとても成立はしないのだけれども、人間はあまりにも鈍感で、しかもたくましい生き物だ。
もちろん『嵐が丘』みたいな、子ども時代にこだわり続けられる人、こだわり続けるしか仕方のない人、というのは存在するわけで、そこからいろいろな悲喜劇が、フィクション世界だけでなく、現実社会でも起こってはいるのだろうけれど。

(No.1108)