マンガばっかり

マンガ批評

歩くひと 完全版

★★★★★

谷口ジローが1990年から「モーニング」に連載していたマンガ。
舞台となっているのは谷口が住んでいた清瀬市の周辺だという。
その近くに住んでいたという映画監督の是枝裕和も書いているように、マチとして紹介されることがないのはもちろん、豊かな自然として紹介されることもないような、なんのとりえもない町だ。
グーグルマップで谷口が住んでいた近くだという台田団地のあたりを見たが、おそらく舞台になっているのが、この柳瀬川であろうと思うくらいであって、本当にツマラナイ!
しかし畑があり、ちょっとした坂があり、シャッターの降りた商店街をぐるぐる見ているだけで、ここで毎日遊んでいた子ども、通勤や通学で通った人々のことを思えば、つまらないのはともかくとして、少なくとも馴染みのある町なのだろうな、語り出せば語りきれないほどの思いがあるのだろうなということが窺え、谷口は、たぶん、そういうどうでもいい景色の中に生きる人間の春夏秋冬、またその次の年の春夏秋冬を描きたかったのだろうなと思う。
話題の街がいけないわけではないけれど、話題の街に行ってみて受ける感動というのは、実は何のとりえもない街を歩きながらハッと思ったり、汗をかいて歩いたりするのとあまり変らないのだということだろう。
清瀬市に観光客がどっとおしかけることなど望んでもいないし、考えてもいない。
それでいいと思う。

(No.1249)