マンガばっかり

マンガ批評

夏の名残りのばら


★★
藤たまきが2004年までCharaに連載していたヴァイオリン職人とヴァイオリニストの物語。
泣けますよ〜ということで借りてきたのだが、私はこれを評価できなかった。
「北米の片田舎」によい木を求めてヴァイオリン職人が移り住んできた… まぁ、いいと思う。
しかし、そういう町にストラディヴァリを持った人がふらっと移り住むというようなことは絶対にない。
いや、マンガなんだから、そういうありえないことはあったっていい。
しかし、その上で、まだ少年というような年頃の子がストラディヴァリにも匹敵するんじゃないかというようなヴァイオリンを作ったり、譜面も読めず、演奏するようになってまだ間もないような少年が天才的にヴァイオリンを弾きこなすというのもありえない。
また、そんな町に天才的なヴァイオリン指導者がいるというのもありえない。
ありえないことを描けるのはマンガの魅力ではあるけれど、読んでいるのは現実世界に住む人間なのだ。
コミック1巻では、どれだけ力量があったとしても、やはり描けないのではないかと思うのだ。
作者は東京生まれとなっていたが、田舎というのはホントに徹底的に、もう哀しいくらいに「文化的」なものがないのだ(もちろん民俗芸能などは例外)。
例えば、札幌に住んでいた或る人は、芸大を受験するために毎週飛行機で東京にレッスンを受けに行っていたというけれど、そういうものなのだ。
そしてヴァイオリンというのも、ソリストとして通用するような人は、これもホントに哀しいまでに幼年時からの特訓(つまり指導者と経済力!)、それから天性の才能を必要とする楽器であって、函館からグレイが生まれたり、因島からポルノが生まれたりというような“田舎力”は全く通用しないのである。
その意味で『のだめカンタービレ』を既に知っている者としては、とても評価できないのである。
もちろん『のだめ』だって、とてもドリーミーなサクセスストーリーだと思うけれど、描写の細かさで、あるいはギャグで「ありえなさ」は十分に補えていると思うのだ。