マンガばっかり

マンガ批評

戦争は女の顔をしていない

★★★★★

小梅けいと、が、ノーベル賞受賞のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチのインタビュー作品をマンガ化したもの。
第二次大戦でドイツは不可侵条約を破ってソ連侵略を開始したが、ソ連では戦線に女性たちも参加し、トータルで2700万人の死者を出しながら、なんとかドイツを破った。
当時のソ連の人口は1億9千万だという(日本は人口7200万人で死者は300万人)。
巻末で監修者の速水螺旋人が書いているように、ロシア人たちはドイツに侵攻してレイプをしたことも報告されているので、本書にあるように凄惨だったのはソ連であってドイツ人が悪なのだ、などということでは全くない。
そもそも戦争というのは、国の人口の6分の1をも絶やしてしまうような人災であり、現在のコロナ禍やスペイン風邪、また震災や津波と比べて、どちらがひどいかどうかはともかく、まことにもってバカバカしいものだということは、本当に本当に肝に銘じておかねばなるまい。
さらにいえば、現在のコロナ禍のような天災に立ち向かう時でさえ、日本政府のようにまったく科学的知見やデータを見ることもせず、自らの過信やら政治信条やら賄賂やらが絡まってなのか、あるいは単なる知識不足なのか、まともな対策さえ取ろうとしないというのは愚の骨頂の中の骨頂の中の骨頂の中の骨頂だということも、肝に銘じておかなければならない!
戦場に飛び出した仔馬を撃ち殺し、その晩に出てきた馬肉のスープを嬉々として食べることができなかったというようなエピソードは、何も女性兵士だからの甘っちょろさだ、などと言ってはいられない。
男だって女だって、老いも若きもそれぞれの場で立ち向かわされ、関わらされるのが戦争なのだ…
これまでは男性中心の視点で戦史が書き綴られていたが、それだけでは誠に大失敗であり、だから本書のようなインタビューがノーベル文学賞を取ったのだろうと思う。
いくつかのエピソードの中で、もっとも印象に残ったのは、ある女性が語った言葉「戦争で一番恐ろしいのは死じゃない。男物のパンツをはいていることだ」というもの。
「何を女々しい!」と、男性読者たちは言うのかもしれないが、雄々しい男性たちが本当に雄々しく振る舞って生きてきたと言えるのだろうか?
例えば男の中の男である作家・石原慎太郎がサムライの気概を持って臨んだという法廷で「脳梗塞の後遺症があって全ての文字を忘れて平仮名さえ忘れました」と言って責任逃れしようとしていたが、今、その立派なおさむらいさんが、『男の業の物語』などという本で男性の素晴らしさを語って(ゴーストなのかもしれないが)、そんな本がそこそこに売れてしまっていることを思えば、女を笑うのもいいだろうけれど、その前にこういうおさむらいさんを笑うのが先なんじゃないかと思う。

マンガ化したのは小梅けいとなる人で、どこぞの女性かと思って調べてみたら男性であり、京都大学の漫画研究部出身で大学院を中退してラノベの表紙絵や成人向けマンガを描いている人なのだという。
京大だからエライわけじゃないし、エロ漫画を書いたらダメだというわけでもなく、また男だからいいわけでもなく、かといってわるいわけでもなく、いい漫画だと思ったから「いい」というのみ!

(No.1204)

あーとかうーしか言えない

★★★★

近藤笑真によるエロ漫画編集者の女性と、そこに持込をした女性漫画家の物語。
3巻になると、その漫画家が17歳であったことも発覚!
エロ漫画は、コミケへの出品作品を見ても触れずにはいられない漫画世界の重要な部分。
その謎を上手く描いている、などとは、その業界に通暁していないのでわからないのだが、あぁ、きっとこんな感じなのかなぁ、とは思える。
こんなにマンガっぽいキャラクターだらけなわけはないだろうが、そのあたりはマンガという大衆娯楽である限りはしょうがない!
あまりにもアンリアルすぎて読めないならまだしも、そうでなければ、おもしろかったらそれでいいと思う!

(No.1203)

裸一貫つづ井さん

★★★★

つづ井、による腐女子マンガ。
なぜタイトルが変わったのかと思ったら文藝春秋のクレアWEBで連載していたからなんだな。
内容は前篇をひきついでパワーは相変らず。
特にマンガのためにネタを作っているわけではなさそうなところが立派である。
少し腐女子ネタからずれてきているような気もするが、オタクであるということと腐女子であるということが、実際、少しずつ起きているような気もするので、その意味でもタイトルが変わったのはよかったのかもしれない。
ただ、以前の経験を踏まえた記述も多く、その際にかなり長めの説明をしなければならなくなっているあたり、少しうざい。
このまま連載するのもいいのかもしれないが、敢えて、ストップした方がいいような気もしている。

(No.1202)

腐女子のつづ井さん

★★★★★

つづ井による腐女子マンガ。
もうこの手の腐女子マンガには飽きたわ、どれも似たようなもんだし… と思って、評判を知りながらも読まずにいた。
今回、「まぁ、そこまで人気なら」ということであまり気も進まないながらも(勉強のために)読んでみたところ、ホロホロと目からウロコが落ちる。
なんてすばらしく意味のない存在なんだろうか、と思って、この上ない感動を覚えた。
まぁ、どこまでが実話でどこまでがフィクションか、もう、そういうことはどうでもいいが、つづ井さんと仲間たちの幸福が永遠に続くように、と願わずにはいられなかった。
自分は腐女子ではなく、腐男子でもないのだが、わかる、と思ってしまうものが多々あった。
腐女子の表現世界もこの本をきっかけに広がった気がする。

(No.1201)

MAO

★★★★

高橋留美子が現在連載しているマンガ。
両親を事故で失った中学3年生・菜花が大正時代にタイムスリップ。
そこで陰陽師・摩緒に会う。
タイムスリップ先と現代を行ったり来たりするあたりは、『犬夜叉』を思わせるが、大正という、遥か昔とは言えない世界であること、陰陽師という体系にも依拠しつつ話を進めるあたりは、より精緻になっているかもしれない。
主人公が中学生に設定されていることからも、あくまでジュヴナイル漫画なのだと思うが、古いながらもきちんとヴァージョンアップされていて、高橋留美子先生、健在だなと改めて思う。

(No.1200)

モトカレマニア

★★★★★

瀧波ユカリが現在連載中のマンガでドラマ化もされたらしい。
最近、Twitterに反政府的なツイートをしているのを見つけて、「あれ、瀧波ユカリはちゃんと仕事しているのかな」と思って、『脳死!! 江古田ちゃん』以来、ひさびさに読んでみた。
元カレの存在を忘れることのできない難波ユリカ27歳のコメディなのだが、すごい! 
「マニア」ということから、安野モヨコの『ハッピーマニア』のようなものかと思っていたのだが、遍歴モノではなく、あくまでユカリは真から抜け出せていない。
この変な心理、変な脳内大臣
東村アキコにも似ているが、もっとアングラな、誤解を恐れずに言えば日大芸術学部的な、江古田的な悪乗り女王という感じが大炸裂していて面白い。
日常生活の中で、静かに難波ユリカと同じような生き方をしている人もいるのだろうが、そういう日常性の中にいる驚異のメンタルの持主が生きているということを気づかせてくれるという社会的な意義(?)から言っても、非常に素晴らしいマンガであると思う。
ちょっとネットで検索してみたら、瀧波はラジオもやっていた! 顔出しの写真もあった! なんとマトモな人なんだ! …という意味でも、二重三重に瀧波ユカリがすごい人であることを再発見!

(No.1199)

スキエンティア

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★★★★

戸田誠二のマンガ。
医学と倫理の間について問う近未来SF短編漫画集、といったところだろうか?
帯には「禁断の科学×ヒト」とある。
新薬や新技術、AI、と、現代の医学と人間の倫理は、日々、試されているようにも思えるのだが、技術に頼りすぎることなく、人間の倫理の力というのも必要なのではないかというのが、7編の連作に貫かれている所だろう。
非当事者のお気楽さとも言えようし、肝心なところで人情譚に落とし込んでいるだけだという批判もあるかもしれないが、コロナ禍の中では、こうしたことが問われないままであり過ぎたのではないか、という気もしてくる。
まぁ、それにしても日本政府の馬鹿さ加減…
(No.1198)