マンガばっかり

マンガ批評

ロスト・ラッド・ロンドン

★★★★

シマ・シンヤによるニューウェーブなマンガ。
刑事と容疑者が真犯人を探す… というロンドンを舞台にしたミステリー。
3巻というのがよい長さだったと思う。
いかにも外人風なセリフ、イラストも外国っぽい。
それがどこの国風なのか、その国の人が見て、「おぉ、自分たちと同じだ!」と感じるかどうかはさておき、そんな漫画に思えた。
とてもスタイリッシュで、クールで、悪くない。
ただ、これがシマ・シンヤにとって、どうしても描きたかった画風なのか、それとも〇〇風の漫画を描きたかったのか、そこはわからない。
そして、最後の足だけ見える人は誰だったのだろう? いろいろ考えてみたが、わからなかった。

(No.1278)

スインギンドラゴンタイガーブギ

 

★★★★

灰田高鴻によるアメリカ占領下のジャズバンドを描いたマンガ。
難しい字の作者だが、女性だろうなと思っていたところがネットで検索すると、まさかの男性で、まさかの顔写真アリ、43歳だそうだ(2021/6/29 )。
40歳でちばてつや賞を取って漫画家デビューというので、もう酸いも甘いもかみ分けた人なのだろう。
しかし、最近は、そういう作品を若い人が、そして女性が描いたりもするものだから、すっかりその線で考えてしまった!
まだ2巻まで読んだだけなので何とも言えないが、特にこの時代やジャズに詳しくなくても読めるエンターテイメントだと思う。
まぁ、エンターテイメントであって悪いことはないのだが、私としては、今の若い人たちにもっと近現代文化史に興味を持ってほしいので、こういうマンガがブームになってくれるといいなと思ったりするのである。

(No.1277)

極東事変

★★★★★

大上明久利のマンガ。
731部隊が人体実験の結果、最強の人間として、銃に撃たれたくらいでは命を落とさない変異体を作ったということから、GHQの支配する日本で、変異体たちがゲリラ活動で日本軍の復活を目論むといった物語。
あり得ないけれど、もしもそんな変異体を作れてしまったら、全くあり得ない話でもないな、という、微妙なリアリティで描かれており、もちろんとんでもSFではあるのだが、時代の雰囲気などもうまく盛り込みながらの活劇になっていると思う。
日本ナショナリズムを満足させるだけだ、などと批判する人もあるかもしれないが、よくもわるくもエンターテイメントとして楽しめる作品なので、そこは無視してもよいのではないかと思う。

(No.1276)

 

あだち勉物語 あだち充を漫画家にした男

★★★

ありま猛あだち充の実兄であるマンガ家のあだち勉について描いたマンガ。
あだち充のことを、「あれ、あだち勉だったっけ?」と、未だに言い間違えてしまうのは私くらいのものかと思うが、小学館学年誌だかに連載しており、充よりも先に知ったことはたしかだ…
ありま猛あだち勉の弟子で、『連ちゃんパパ』の作者。
ほのぼのしているようで、実はけっこうエグイというのも、さすがに弟子、ということか?
それにしても勉を見ていたからこそ充が育ったのだろうが、ともに全く違った個性がありながらの天才マンガ家だったことは確かなのであろう。

(No.1275)



復讐の教科書

★★

廣瀬俊・河野慶が「マガジンポケット」に連載中のサスペンス漫画。
教師に憧れる少年・黒瀬はいじめられっ子。
エスカレートするイジメのために屋上から突き落とされるが、直下にいた教師・白鳥に直撃。
二人は入れ替わってしまい、白鳥の姿をした黒瀬は、いじめっ子グループに復讐を加える… という話。
2巻まで読んだところだが、いかにも現代っ子たちが、ワイワイしながら読みそうな漫画だなと思う。
教師と生徒の人格が入れ替わることについてのリアリティは問わない。
問題は、そのようなことが起こってしまった世界の中でのリアリティ、つまり、昨日までいじめられっ子だった生徒が、次の日から先生として誰にも怪しまれることなく振る舞えるのか、ということだ。
知識や性格、口調やクセまでコピーするのは不可能だろうし、いくら姿が同じであっても、「おかしい!」と、誰もが感じるはずだが…
読者層が小学生くらいならば、藤子不二雄Ⓐの『魔太郎が来る』のようなノリで読めるかもしれないが、もう少し上の年齢層を狙うには、もう少ししたたかであるべきだと思う。
まぁ、作者にしても出版社にしても、売れているのならば、もうそれで十分なのかもしれないが…

(No.1274)

 

コーポ・ア・コーポ

★★★

岩浪れんじ、がGOTという出版社から刊行したマンガ。
アマゾンで勧められているのを見て購入。
1巻の帯には私小説芥川賞作家・西村賢太(追悼…)が大絶賛とあったが、それも頷ける感じ。
大阪を舞台にしたアパートの居住者を中心とした人々の生業が描かれている。
よくできているとは思うのだが惹きつけられない。
自分が体験していなくても「うわ、これはリアルだ!」と、思わせるのがリアリズムの極地だと思うのだが、「まぁ、そうかもな」と冷静に読めてしまった。
おとなしいというか、リアルの凄みがない。
別に私小説ではないのだろうから、「本当にあった話」に拘らず、フィクションの力で乗り越えたって良いのだが、そこまでにガツガツはしていないようだ。
誰か魅力的な人物、それがカワイイのか、セクシーなのか、カッコいいのか、おもしろいのか、その辺はどうとでもなるのだが、そういう存在もいなかった。
同じ大阪を描いた『じゃりン子チエ』だと、ユーモアやペーソス、チエやテツのキャラがあったのだが、そこまでの魅力的人物(多分にアンリアルではあろうが)がいなかった。
やはり大阪を舞台にした『ザ・ファブル』だともっと怖いし、もっとギャグがあり、もっとペーソスもある。
ただ、おそらく作者は、そうしたマンガらしいマンガを求めていない気がするので、だったら、そこはもっと徹底的にリアルで、おそろしいマンガを中上健次的にまで突き詰める方向を取って欲しかったな、と思う。
そのあたりは価値のあるなしではなく、好き嫌いという問題なのかもしれないが…

(No.1273)

団地ともお

★★★★

小田扉による名作!
33巻を全巻を読破した!
小田扉天才だなぁ、と思う章もあれば、うーん、と思う章もあり、しかしトータルで言えばやっぱり天才だろうな。
横須賀あたりをモデルにした枝島市の団地を舞台にしたマンガで主人公は小学4年生のともお。
勉強はできないけれど、野球とマンガは大好き。
しかし野球が特にうまい訳でもない… という、いかにもよくある設定なのだが、そんなともおが、なぜか物まねがうまかったり、それを羨望する同級生がいたり、うまいとみせかけるためのテクニックをともおが実は使っていたり、という、そういう小学生あるあるの小ネタの揃え方がスゴイ。
鉄オタ少女の委員長は鉄道ファンでさえ一目置く存在だったり、暴力少女のケリ子をなぜか恋する少年がいたり、そんなケリ子は青戸さんが大好きだったり、ともおの母は元はカリスマ的人気の女子プロレスラーだったり、という、そういうごちゃ混ぜ感、しかし、絶え間なく新キャラを投入するのではないところなども心憎い。

(No.1272)